No.261

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傲慢な紳士のバターミルクフライ — 宮沢賢治「注文の多い料理店」より

​「食べられちゃえばよかったのに」と、少しだけ残念に思った全ての方へ。本日は、宮沢賢治の不朽の名作「注文の多い料理店」より、「もし山猫軒のオーナーがクッキングに成功していたら」について考えてみたいと思います。
 倒れた猟犬たちが助けに来てくれたことで間一髪、難を逃れた紳士たち。
 しかし助けが来なかった場合、いったいどんな紳士料理ができあがっていたのでしょうか。
 物語の面白さを味わいながら考察したいと思います。
すこし行きますとまた扉(と)があって、その前に硝子の壺が一つありました。扉には斯う書いてありました。
「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。

 山奥へ狩猟に来た二人の紳士。霧の中で道に迷い、一軒の西洋料理店「山猫軒」を見つけます。
 「どなたもどうかお入りください」という言葉に誘われ、空腹の二人は奥へ進みますが、次々と現れる扉には「金属類を外せ」「クリームを塗れ」「塩を揉みこめ」と奇妙な注文ばかり。
 「自分たちは客ではなく、食材である」と気づくも時すでに遅し、二人は最後の扉の前に立っていました——。

 宮沢賢治は生前、25歳の若さで書いたこの物語について「都会のブルジョワジーに対する地方の若者の怒り」がこめられていると語ったそうです。
 なるほど、二人の紳士が軽佻浮薄で不謹慎な輩だということは、物語の序盤からこれでもかと示されています。

 この物語の真髄は、そんな都会の特権階級である紳士たちが、自らの手で自分を「美味しく」仕上げていく滑稽さにあります。
 もちろん、「身なりをきちんとせよ」「鉄砲と弾丸を置け」といった注文は、単に食べやすくするためだけでなく、「大自然に敬意を払え」「面白半分の殺生を止めよ」といったメッセージがこめられているとも解釈できるかもしれません。
 紳士たちは、「えらいひと」が来店しているためドレスコードが厳しいのだと勘違いしていますが、店の奥にいるのは貴族などより遥かに畏敬の念を払うべき存在だったというわけです。
 興味深いのは、クリームを塗り、酢(香水瓶の中身)を振りかけ、塩を揉み込む工程です。これらは現代の料理法に照らせば、肉を柔らかくし、臭みを消して味を整える「バターミルクフライ」の再現と言えるかもしれません。

【材料】
紳士の骨付き肉・・・2本 ※手に入らない場合は鶏もも肉で代用可
クリーム・・・・・・1/2カップ
酢・・・・・・・・・少々
塩・・・・・・・・・少々
小麦粉・・・・・・・適量
調理油・・・・・・・適量
菜っ葉(飾り用)・・・適量

【作り方】
骨付き肉にクリームをよく塗り込む
酢を振りかけて、代用バターミルクの風味にする
塩をよく揉みこむ
小麦粉の上を転がす
油でからっと揚げる
お皿にのせて菜っ葉を添える
少し冷ます

​ 紳士たちは自分の慢心というスパイスに気づかず、せっせと「最高の一皿」への協力を惜しまなかったのです。
​ そんな彼らの目の前で「注文の多い料理店」の本当の意味が明らかになり、注文する側とされる側、狩る側と狩られる側が逆転する瞬間が鮮やかです。

 物質的に豊かな現代の生活。一方で、情報の洪水に呑まれて地に足つかず、大切なことを忘れてしまっている面もあるのかもしれません。
 豊穣な自然の恵みや、そこに生きる人々の忍耐深さがなければ、都会の一見豊かな暮らしなどたちまちにして崩れ去ってしまうわけですから……。
 ある日気がついたら、私たち皆で「西洋料理店 山猫軒」の最後の扉の前に立ちつくしていた、なんてことにならなければいいのですが。
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